火のつけ方すらしらないゆとり達がキャンプに挑戦する話
「ぼくのなつやすみ2」というゲームがある。
「ゲームの中で夏休みを楽しみまくる」みたいな感じのゲームだ。
この夏の思い出をくすぐりまくるゲームに平成6年生まれ、ゆとり世代ダイレクトな僕と友達の山田くんはめちゃめちゃハマった。
僕たちは「青春」とかいう全ての夏を放置してゲームライフを送りまくっていた。
「彼女と花火大会」「みんなでBBQ」んな物は知らない。
代わりにモンハンのプレイ時間は999時間まで行った。
全ての青春という青春をゴミ箱にぶちこんだ。もう、戻る事は無い。
そうして時は流れに流れ、気づけば2016年。
僕たちは鬼の平成6年boy’sだ。
平成6年生まれとなると、ゆとり世代まっしぐらの年代だ。
学校で習った円周率は確か2.5くらいで、学校は週休5日くらいだった気がする。
肩パットに釘を打ち込んで、髪型はモヒカンで統一し、馬で登校してた。
そんな生粋のゆとり世代がダイレクトアタックな僕たちは、23歳になり新卒として無事社会の荒波にもまれている。
大人になると昔の友達と疎遠になる、というけれども
スマホのおかげで、今日もツイッターやインスタグラムで離れた友達みんなの毎日が見れる。
離れてたっていつもつながれる。何があったか知れる。
ゆとりのあるデジタルネイティブ世代の当たり前。だ。
そんな毎日を送っている中、僕は夏うた特集のラジオを聞いていた。
「♪あの頃捕まえたカブトムシ、ひまわり畑を走り回った。打ち上げ花火の音色~」
とか、そんな感じの夏の歌。「いいね~」と思いながら聞いていてふと思った。
ん?「夏、カブトムシ…花火、キャンプ…僕、一度も行った事ないぞ??」
「あれ?僕、夏らしい夏をエンジョイしたことないんじゃないか?」
…無い。思い返せばまったく無い。
ゆとり世代の中でも生粋の引きこもりだったぼくは、山田くんと学校終わって毎日ゲームしたり、海にも行かず、ネットでサーフィンしたりしてた。
大学生活では、サークルにも入らず、特にする事が無かったのでゆるい筋トレをしてた。
「夏」「BBQ」「花火」「キャンプ」「カレーつくり」「天体観測」「カブトムシとり」
ぼくのなつやすみ2で全て経験はしたけど、現実ではひとつも経験したことが無い。
これはマズい。いや、まずくはないんだけどなんだか悔しいぞ。
「このままでは、夏を知らずに終わってしまう…!」
そうして、夏も終わりかけた、9月に僕は思った。
このままでは、夏を知らないまま人生を終えてしまうのでは無いか?
「スルーした僕の夏休みを、BBQを、花火を、カブトムシを、なんとか取り戻したい…!」
僕は、最高の夏を取り戻す旅に出る事を決意した。
最高の夏を取り戻す旅に出るぞ!
ゲームに詰めこんでしまった僕の夏。
旅に出る。と決めた。
別に一人で旅に出てもいいのだけれどツイッターを見ていると、
先ほどの友達の山田くんが地元の岐阜に帰ってきていることがわかった。
彼は普段は東京の会社で働いている。
幼馴染と夏。アニメやドラマでよく見る最高の夏のキーワードだ。(ただし今回の幼馴染は男)
「これだ!」
僕は急いで連絡を取り、「夏を取り返す旅にいこうよ!」と電話をかけた。
いきなりのお誘いにもかかわらずテキトーな
二つ返事でオッケー。ヒマな山田くんはノリノリだ。準備はできた!
↑たぶん彼の最後の言葉は「最&高」と言いたかったんだと思う。
キャンプ場は夏らしさの暴力だ!
「汝が夏を求めるならば、キャンプ場に向かえ。さすれば与えん。」
旧約聖書にも、確かこんなような事が書いてあった気がする。
インターネットを抜け出して、キャンプがしたい。
と、いうわけでササっとスマホで検索をかけ、家から車で1時間半ほど走ったところにある岐阜県本巣市に位置する「NEOキャンピングパーク」へ向かう事にした。
NEOキャンピングパークでは、コテージ、キャンプサイト、BBQハウス等が用意されておりキャンプサイトなら一泊5000円~という低価格で夏を体験できる。
レンタルがあるので手ぶらで行ってもOK。日帰りならもっとお安い。
つまりどういう事か?率直に言おう。つまり、「最高」である。
花火、スイカ割り、魚釣り、川遊び、BBQ、キャンプ。全てを一度に叶える事ができる。
アウトドア初心者でゆとりな僕たちに遊びきれるだろうか?
川でテントを張りながらスイカで魚を釣って、花火でBBQするくらいじゃないと厳しいかもしれない。
ニジマスを釣って焼いてやろうか。あるいは、ニジマスに釣られて焼かれてしまってもいい。
めちゃめちゃでかいカブトムシがとれるかもしれない。むしろ僕がカブトムシだ。
最高の夏が、そこに待っている事を僕は確信し、せっせとアウトドア好きの両親からキャンプ用品を借り、当日に備えた。
ぼくたちの夏休みへ
大雨の予報
9月6日午前6時起床。
大雨の予報が出た。
今日は大雨らしい。
すごい。逆に興奮してきた。
雨?関係ない。
ジョブズも言っていた。
「今日が人生最後の日なら、あなたは何をするだろうか?」
今日が人生最後の日なら、僕たちは最高の夏を探す旅に出るだろう。
僕たちに足りないのは、そういうマインドだ。雨なんて関係ない
と、、、思っていたが、意外にも昼前には晴れた。
「いけそうだ。」僕は車に荷物を詰め込み、山田くんを迎えに行った。
虫アミの左下にある緑の箱は、あらゆるカブトムシを大量に捕獲した後に保管するボックスです。
久しぶりの再開
写真は展望台で景色を見ている僕です。
駅まで車を走らせ、山田くんと久しぶりに再開した。
と、行っても半年程前に東京で会ったのでそこまで久しぶりでもない。
僕「おう」
山田くん「おす」
僕「行こか」
山田くん「うん」
駅で再開し、展望台をちょとっと回って買い物へ向かう。
しかし半年ぶりくらいにあったのに一切の感動もない会話だ。
常にツイッターとかでお互いを知り合っているので、特に報告すること無いのだ。
最近のツイッターでの報告によれば山田くんはケツ毛を脱毛したらしい。死ぬほどどうでもいい。「あ、コイツのケツ毛ないんだな」って再開して思ったが、なんだか悔しかったので放置した。知りたくないことでもいつもつながり合ってる僕たちは知れてしまう。
と、いうわけでショッピングモールでいろいろ買い揃える。
花火をたくさん買いました。予算オーバーなのでポテチは退出。車に乗りながら食べるアイスも買いました。
「作り方わかんないし、もういっそ全部レトルトでいいんじゃないか?」 という話になり、レトルトのカレーとご飯を買い込みました。
買い込んだ物を紹介したいところですが、
ひとまず結論からいいます。
カード支払いに対応してなかったので食材が無しになりました。山田くんは1000円しか持ってなかった。僕もキャンプ代の5000円しか持ってなかった。凄い。マジでキャンプを舐めてる。
「キャンプ場まで40kmくらいあるし、どっかにカードを使える店があるんじゃない?」
と、いう事になりひとまずキャンプ場へ向かうことに。
この計画性の無さがゆとりっぽさかもしれない。
しかし、出発してみると、予想に反して
スーパーどころか、コンビニも見つからない世界が登場。
山田くん「自然が溢れてるね…。そういえば、最後にコンビニ見たのいつ?」
僕「さぁ…何年前だったか…」
山田くん「どーする?スーパーどころか、コンビニも見つからなかったけど。」
僕「とりあえずもうすぐチェックイン締め切り時間だから、スーパー探してると間に合わなくなっちゃう。チェックインだけして職員の人に周りにスーパーないか聞いてみようよ。最悪釣った魚とかあれば大丈夫。」
山田くん「カブトムシ食べるかぁ…。」
と、いうわけでとりあえずャンピングパークに到着。
コテージがかわいくていい感じ。
小川!!魚が泳いでる!釣って食べられます。自然が溢れてすっごく綺麗!
受付をした
受付をしました。
また、結論からいうとそもそも予約できてませんでした。
ヤバイ。なんだこれ。最高の夏を目前にして、また無駄なゆとりっぷりを発揮してしまった。
僕「ごめん。予約できてなかった…日を改めて一旦退散しよう。ホントごめん!」
山田くん「僕たちここまで何しにきたんだよ…」
門前払い以下の展開
「計画性」という言葉の意味を再認識しました。
僕「旅、終了かなぁ…申し訳ない。」
山田くんは隣で無言でスマホを触っている。
山田くん「いや、まだ終わっていない」
スマホを触りながら大声をあげる山田くん。
いいかげんポケモンGOをやめてほしい。
僕「えっ?」
山田くん「ほら、昔先生も言ってたじゃん。「家に帰るまでが、遠足だ」って。その理論に沿えば、僕たちの旅は、まだ、」
遠足の時に言われたあのセリフ。まさか、この年になってまた思い出すと思わなかった。
そうか。旅。旅は、まだ…
「「終わってない!!」」
そう、旅は家に帰るまでが旅なのだ。
海外へ行こうと、その辺をぶらぶらしようと、
たとえ、どこへ行こうと、自分が旅だと思ったら旅なのだ。
この革新的な solution.なんの解決にもなってない気がするけど。
僕たちの最高の夏は、始まったばかりだ。まだ、終わっちゃなんかいない、と無理やり思い込む。
~ゆとりは予約をわすれ
そうと決まれば、切り替えは早い。まだ。家に帰るまで時間はたくさんある!
僕「おお!じゃあ、家の近くに川原あるじゃん!あそこでBBQしよ!花火もしよう!」
最高だ。最高の夏は、まだ待っている。10月に入ったって、近所だって、
旅に出た。と思った瞬間にそれは最高の夏の旅なのだ!
山田くん「あ、カイロス捕まえた。」
僕「いい加減ポケモンGOをやめろ。」
近くのスーパーでパパっと食材を揃えた。花火の規模は最初の買い物より劣化した。
近くの川原へGO。夕暮れの川原に街灯が反射してかなりGOODなロケーションだ。
セッティングもOK。遠くに山と城が見えて、いい感じだ。
~ゆとりでもBBQがしたい
とりあえずセッティングが終了したので、BBQでカレーを作ることにしました。
僕「とりあえず木炭?は持ってきたけどこれどうやって火つけるの?これでカレーとかいける?」
山田くん「なんもわからん。ライターで木炭炙れば火つくんじゃない?
ひとまずライターで着火を試みる僕たち
カチッ
カチッ
………まったく火がつかない
僕「全然火つかないんだけど。この木炭壊れてる。一瞬で火がつくアプリとか無い?」
山田くん「ないなぁ。あ、アレあるじゃん。さっき買ったアレ。アレ使おうよ。」
僕「あ~アレね。アレならいけそう。」
アレだ。アレを使う。
僕「いけっ!」
カチッカチッ
シュ…シュゴォォオオ!!
一度に花火もBBQも楽しめる革新的なソリューション。
山田くん「おぉ~綺麗綺麗。いや、夏だねぇ…」
僕「風情がバグってるね。」
木炭だけでは燃えきらないので、川原に落ちていた枯れ木を追加。凄く綺麗だ。
僕「これ完全に着火したわ。追加の木ある?」
山田くん「いや~もう無いなぁ…あるけど、かなり湿ってる。」
僕「え~どうしよ。あ、そうだ。借りたアレがある。」
両親から借りた簡易ガスバーナー。
BBQとはなんだったのか。
よく火がつかない!とか言う人いるけど普通にガスバーナー使えばいいと思う。
文明の利器の力だ。
僕「これならいけるんじゃない?」
山田くん「コレ、完全に正解な奴じゃん。これで着火しよう。」
僕たちは天才なのかもしれない。
僕「なんか、僕が思ってたBBQと違うな…」
山田くん「むしろもうこれで料理全部いけるんじゃない?」
僕「だね。もうバーナーで米炊こうか。」
水の量は適当に入れて、バーナーで着火して、アルミホイルで蓋をしました。
僕「おいしくできるかな~。米おいしくなかったらちょっと残念になるよね…」
山田くん「さっき買ったレトルトのご飯もあるから大丈夫。」
それでいいんだろうか。もうここまで来ると何もわからない。
グツグツと、ご飯を炊きに炊き込む。時間は適当。火力も適当。食べログに対する冒涜。
待ってる間にカレーの材料を切りました。
山田くん「切るのしんどいんだけど…一瞬で野菜が切れるアプリない?」
僕「iphone700くらいまで待ったら出るんじゃない?」
意外にも完璧に炊けた。めっちゃびっくりした。
僕「凄い、全部カンでやったら意外と完璧に炊けた。」
山田くん「よっ人間炊飯器!」
僕「そういう雑な奴はいいから。後はカレー作るだけじゃん!テンションあがる!」
カレーを作る間に、せっかく着火した木炭が勿体無いので買ったエビフライを暖める。
お惣菜を持ち込む時点でBBQの意義がだいぶ失われてる。
グツグツ…グツグツグツグツ…
グツグツとカレーを煮込む事数十分。パズドラしてればすぐ終わる。
カレー完成。美味しそうに見えるけど、こげが凄まじく浮いていた。
暖めてたエビフライと、炊いたご飯と一緒に頂く。完成まで2時間くらいかかった。
僕「うわ!!何コレ!!うっま!!!うまい!!」
山田くん「美味い!これ普通にカレーじゃん!冷静に分析すると家で作るカレーや外食で食べるカレーより2段階くらい雑味が多い上に、じゃがいもに火が通ってないけど、夏の旅効果でめちゃめちゃうまい!!」
僕「冷静な分析を挟むな。」
カレーをカレーで洗う戦争はこの後も続けられ、肉という肉は焼かれに焼かれた。
おなかいっぱいになったその後、川原に移動して川に石を投げてピョンピョンさせたりする事に。
山田くん「セイッ!」
ドボーン!(0回)
つ
僕「全然ダメじゃん。水切り石はこうやってやるんだって!」
ヒュッ
ドボーン(0回)
ムリだ。水切り石が無限にできるアプリをリリースを待つしかない。
僕「確実にブラジルまで行ったわ」
山田くん「youtubeで音楽かけてよ」
僕「お、いいね。」
secret base ~君がくれたもの~ ZONE - YouTube
推奨BGM。
僕「あ~音楽あるとめちゃくちゃいい。夏って感じですっごくしんみりする。10月だけど。」
山田くん「ありえん良さみが深い。ってか今思ったんだけどさ、きっと、人に話しても今の良さみって5%も伝わらないんだろうなって。」
僕「うん。僕もそう思う。きっと、ある程度は伝わっても今の気持ちとか、夏の川原のにおいとか、夏に作るカレーの味とかは、こうやって旅に出て経験してみないとわからない事だらけだった。」
山田くん「僕たちの世代なんてさ、昔からネットやTVで見たり知ったりできるから知ってるような気になるけど、実際に経験することと、知ることってこんなに違うんだなって改めて思った。」
僕「じゃあ、その〆に今まで知らなかった、夏の終わりの線香花火って奴をやろうか。」
夜の川原は凄く綺麗で、地元のはずなのにとても新鮮に感じた。
僕たちは今まで、ネットやTVで知る事はできたけれども、実際に旅に出て体感する事。カレーを作ること、火をつけることの難しさや楽しさを新たに知ることが出来た。
どれだけスマホが普及しても、みんなとつながれるようになっても、
外に出てみなければわからない事だらけだと、経験することができた。
夏は、まだまだ終わらない。10月になっても。
4本一気に着火します。
山田くん「もう10月だけど、夏ってさぁ…いつ終わるんだろ。」
僕「ま、線香花火が落ちたらおしまいって言うじゃん?コレが落ちたら、僕たちの夏もおしまいってことで!」
山田くん「うぅ~切ないわ~!」
4本まとめて夏の終わりへのカウントダウン開始
シュッ
ボッ
線香花火へ着火。これが落ちたら、夏もおしまい。
僕「元気玉みたいになった上に、火薬を超えてもパチパチしないんだけど。落ちる気配一切ないし、これこのまま行くと僕の手まで焼けるぞ?」
元気玉は一切パチパチせず、じりじりと僕の手まで迫っていった。やばい、火傷しそう。
山田くん「これはアレじゃない?“僕たちの夏は、まだ終わらないぞ”っていう。」
僕「ちょっ!ポエムはいいから!あっつ!!」
山田くん「さ、片付けて帰るか。」
こうして僕たちは、帰路についた。
家でキャンプすればいいじゃん?
と、いうわけでいそいそと帰宅。家に帰っても、旅は終わりません。
せっかくなので、部屋にテント立てて寝ようかと思ったけど天井高さが足りなくてムリでした。
寝袋にくるまり、電気を弱くして就寝。車を運転してカレー作っただけでへとへとになった。爆睡。
~睡眠
「今クラスに好きな人とかっている?」
「ふなっしー」
「ゆるキャラじゃねーか。」
山田くんには彼女がいる。中学校の時に好きだった子の事はもういいんだろうか。
僕の中では、山田くんはずっとその子の事が好きなはずなのだけれども。
「そういえばさぁ…」
なんとなく、半年前に東京で泊まった山田くんの家での事を思い出していた。
都内にあるマンションで、ベランダから東京の夜の高層ビル街が見えた。
それは、僕たちの地元の駅前のビルよりとんでもなく高くて、小学生の頃に話した「とうきょう」よりもリアリティのある東京で、いつの間にかお互いが大人になってしまった事に気づいた。
ワンルームに山田くんの彼女のスーツや、小物が転がっていたことも、お互いが大人になった事をより一層実感させた。
マンションから、東京のビルが輝いていた。
小学校1年生で気づけば友達になってもう15年くらい。
高校も大学も別で、勤務地も別になってしまったけどきっと何十年先も友達なんだろうと、そのとき強く思った。
僕「小学校のとき、どうぶつの森で山田くんの村の木全部切り倒してごめんな。」
※「どうぶつのもり」という自分の村を持てるゲームがあり、友達の村に遊びに行くことができた。
山田くん「お前それ去年も同じ事やったじゃねーか。」
これから、どうなるんだろう。
まだまだ若いし、先の事なんてわからないけど、また来年もゲームやデジタルじゃない旅に出たい。と思った。
僕「あと、東京行った時に、君が寝てる間にドラクエビルダーズで君の彼女の作った城を全部ぶっ壊したの僕なんだ。ごめんな。」
※ドラクエビルダーズというゲームがあり、自分の村や城を作って世界を救うというようなゲーム。
山田くん「……zzz」
僕「僕も寝るか。」
「東京に行ったらまた山田くんの彼女の村に破壊の限りを尽くそう。」僕はそう強く誓い眠りについた。
~カブトムシを捕まえたい
本当は起きて、ラジオ体操がてら携帯でラップのビートを流して二人でラップバトルをしようかと思っていたけど昼過ぎまで眠ってしまった。
今夜で山田くんが東京に帰るので、適当にその辺の地元の夏っぽいスポットをぶらぶらする事にした。
でかける前に、まだカブトムシを捕まえてないので近所の木に罠を設置しておいた。
山田くん「これ何?」
僕「キッチンペーパーに砂糖水とはちみつをしみこませた物」
山田くん「えー、こんなんでカブトムシとれるの?」
僕「小学校の時にやったゲームで主人公がこの方法で捕まえてたからたぶんいける。」
山田くん「じゃあ大丈夫だな。でかけるか。」
ちなみに、帰宅後カブトムシが集まってみたかチェックしてみたら
何匹か集まっていたため
虫アミで捕獲した。
僕「これでOK」
山田くん「完璧に夏をこなしたな。」
その後、僕たちは地元を歩きまわり
神社だったり
古い町を歩いたり
路地裏に入ったり
小川だったり(この後靴をずぶぬれにした)
猫だったり
わびさびだったりして、半径5kmの旅を楽しんだ。
プリクラを撮りたい
僕「おっプリクラ撮る?」
山田くん「証明写真じゃん」
800円の男性向けで綺麗に撮影できるメニュー
僕「いつの間にか男性向けまで出てる。すごいなぁ」
山田くん「今は就活でもプリクラでも盛る時代だからねえ。」
ついでにsnowアプリで更に盛っておいた。snowさえあれば何も必要ない。
そろそろお別れの時間。
僕「そろそろ新幹線の時間じゃない?」
山田くん「うん。そろそろ帰る。昨日も楽しかったけど、地元を回るのも結構旅の感じあったね。」
僕「うん。改めて旅って思って行くとすっごくよかった。いつもはなんとも思わないのに、夏の旅の感覚があった。なんでだろうね。」
山田くん「ま、出来れば今度は別のところに旅に行きたいけどね。あれじゃない?全ては気分次第ってやつ。」
「旅。」
旅というのは、別の文脈から世界を眺める、という事なのかもしれない。
何度か訪れた街も、見知った川原でのBBQも、少し見方を変えればとんでもなく大冒険だった。
海外旅行だって、有名な観光地だって、もちろん楽しいし立派な旅だけれども、一駅隣に出るだけでも、散歩を別の見方で見るだけでも、きっと旅なのだ。
別の文脈から見る街は、新しい世界は、インターネット以上に世界がこんなにも楽しくて、広くて、僕たちがまだ何も知らない事をやさしく教えてくれた。
山田くん「じゃ、俺そろそろ帰るわ。また今度遊ぼうな。」
僕「おう。」
淡白な別れ。僕たちはいつもこんな感じだ。
そうしてきっとまた半年に一度くらい、突然「明日遊べる?」とかラインが来る。
楽しい時間も、終わりはあっけない。
山田くんを駅まで送り、僕は帰路についた。
僕の住んでいる町は、まぁまぁな田舎だ。
空を見上げると、綺麗に星が出ていた。
まぁまぁな田舎だから、まぁまぁ綺麗に星が見える。
スマホを構えて、星空を撮ってみた。
…上手く撮れない。
きっと高いカメラなら綺麗に取れるのかもしれないけど、スマホだとあんまり綺麗には取れなかった。
肉眼で見るほうが、何倍も美しい。
きっと今高いカメラがあっても、撮っても、それは今見ている物とは少し違う。
高いカメラで撮る、綺麗な風景の写真も素敵だ。星空も素敵だ。
けれど、写真で見るだけでは満足できず、星空を見に行く人が多いのはきっとそういう理由だ。
まだまだ若い僕たちにとっては、スマホのカメラで撮って、インスタグラムにアップロードされる写真の方が何倍も身近でそれらしく感じる。今いる場所をリアルに感じる。それが、きっと旅に出る理由でもあると思う。
もちろん、いいカメラの写真も美しいけれども。
ツイッターを覗く。
また、日常に帰ってきた。
「山田くんが旅の写真をツイッターに上げてるかな?」と思ったけど、何の言及も無く彼はそのままだった。
なんとなく、僕もそういう気持ちだった。
理由はないけれど、心にそのまま閉まっておきたい。そんな旅だった。
あ、後で山田くんに今日撮った写真を送ってあげなきゃ。
今頃東京だろうか。今度会えるのはいつだろう。
翌日、ラインを開き、彼に写真を送った。
昔だったらきっと手紙とかで郵送してたんだろうか。今ならそんな必要は無い。いい時代だ。
僕たちはいつでもつながっている。たぶんこれから先も。
ゆとり世代の特権なのかもしれない。
旅は、何歳になって、誰と旅に出たって、楽しいものだ。
※ 記事には一日を50円で売ってる東大生の高野りょーすけくんが付き合ってくれました